踏水術游泳教範 第二章

第一教・第一

第二章

第一教 潜み
初心者の潜みは水に慣れるのが主眼である。息を十分にため、水に抵抗せずに心を落ち着かせて息の続く限り水底に沈む。これを練習して習得すれば游泳は自然と上達するものである。故にこれを游泳指導の入り口とする。

第一 面浸
これは手をつけながら息を止めて最初は顔の部分だけ水につけ、最後は水を嫌がらずに息の続く限り沈めるものである。
但し、水に沈むときは両目を開け、頭を水から上げる時に顔を手で拭わない習慣を付けることが大切である。
生徒が「手をつけー」あるいは「体を伸ばせー」の姿勢にあるときに次の号令をかける。
「面浸けー」
この号令で生徒は息を止め顔を水に沈め、息が続かなくなりそうになったときに各自号令なしで顔を上げる。(図八)
以上の各技は生徒が習熟するに従って回数を増やして連続して行うと良い。例を示す。
号令「座れー、水を掻けー、第一法(第二法、第三法)始めー、止めー、面浸けー、這えー、足撃ー、進めー、止まれー」
[注意]十分に顔を上げて息をつくようにすると良い。これは水を飲まさないためである。


第一教・第二

第二 面浸け掻き
これは前項のように両足で水を撃ちながら両手で水を左右に掻き、初めて水に浮かんで泳ぐことを学ぶものである。
生徒が手をつき足を伸ばしているときに次の号令をかける。
「面浸けー、水を掻き泳げー、始めー、止めー」
「始めー」の号令で顔を水につけ両足は第一章第二教第七の足撃、両手は同教第三の第一法で手足を同時に動かす。(図九)
生徒は体が浮かず沈みそうになったとき、あるいは息が続かなくなりそうになったときは各自両手をついて顔を上げ息を継いで、止めーの号令があるまで続ける。止めーの号令がかかったらすぐに元の姿勢に戻す。


第一教・第三

第三 面揚げ掻き

これは前項のようにして顔を上げて前に向かい泳ぎ進む。生徒が面浸け掻きをある程度習得したら顔を上げて泳ぐことを教える。そのために次の号令をかける。
号令「面を上げ掻き泳げー、進めー、止まれー」
この動作は顔を浸けて泳ぐのと変わりはない。ただ顔を上げる点が違う。泳ぎを教えるにあたり、初めは生徒が手をつき体を伸ばすことの出来る浅いところを選ぶ。ある程度習熟して体がよく浮かぶようになれば腰より深いところで練習する。その場合は水中に立った状態で始め、止めーの号令で再び立つ。
[注意]腰より深いところといっても、乳くらいまでの深さが適当である。


第二教・第一

第二教 手繰り游ぎ

 これは諸游ぎの中で最も応用の広いもので、肢体の疲労は最も少なく、遠く永く泳ぐにはこの技が最適である。

第一 面浸け手繰り
生徒が直立不動の姿勢にあるとき(以下の各技はこの姿勢から始める)次の号令をかける。
「面浸け手繰り 泳げー」
泳げーの号令で息を止め体を前に倒し顔を水に浸け両足は水中で各自自由に動かし、両手は第一章第二教第三の第二法で水を左右に掻き分けて前に向かって泳ぎ進む。
生徒は息が続かなくなったら号令なしで泳ぎを止め直立不動の姿勢をとる。
[注意]膝はなるべく開くのがよい。


第二教・第二

第二 面揚げ手繰り
これは面浸け手繰りが出来るようになってから顔を上げて行うものである。手足の動きは前項と同じである。
号令「面上げ手繰りー 泳げー」
動作は全て前項と同じ。顔を上げるところが違うだけである。
生徒は体が疲労するまで泳ぎを続ける。疲労が限界になろうとするとき、教師が笛を長く吹くか「止めー」の号令をかけたとき、生徒は動作を止めて直立不動の姿勢をとる。


第二教・第三

第三 本足手繰り
目は一点の目標を注視し、体は少し斜めにし、両手を手繰ると同時に一方の足で水を踏み、他方の足で水を蹴る。このとき、左先と右先は人それぞれ利き足によって決まるが、利き足に応じて一定の法則がある。例えば、左先の人は左手を手のひら半分ほど前に出し、体もこれに応じて少し斜めになり、両手を手繰ると同時に右足は踏み左足は蹴る。右先の人は逆になる。(図十の一二)
号令「本足手繰り 泳げー」
動作を止めるタイミングは前項と同じ。
注意 左先は右利き、右先は左利きである。
技術の程度によって少しずつ直していき、足が深く沈まないのがよい。